2006年06月21日

釣魚歳時記 著者・盛川宏

◎当ブログ管理人が奨める読みどころ

【アイナメ・鮎並】
鮎なみに美味であるという意味であろう。また愛魚女とも書くようだが、これは単なる当て字のひとつに過ぎない。ともあれ標準和名はアイナメだが、関西ではアブラメといい、北海道ではアブラコと呼び、東北地方ではネウと称している。そっくりさんにクジメがいる。アイナメの側線が五本であるのに対し、クジメは一本である。

[あいなめは息吐く焼いてしまふべし]新谷ひろし
やや磯臭い魚である。その方がアイナメらしくていいと好む人もあるが、料理には木の芽を用いることが多い。磯臭さ、生臭さを消す効果もあるのだろうが、アイナメの旬は春から初夏にかけてである。ちょうど木の芽が出る季節でもある。アイナメの当歳魚のことを関西では「アブ新」という。アブラメの新子というわけで、さすが大阪流省略語といえようか。あべこべに大物の三年、四年もののことを「ポン」とか「ポン級」と呼んでいる。だいたい、20センチで二年魚、30センチ三年魚というふうに分類するから40センチは四年物ということができようか。小さいものは普通一匹、二匹というように勘定するが、30〜40センチ級にもなれば一本、二本という。この“本”がポンであるために、大アイナメのことをそう呼ぶのである。東京はじめ関東ではこれを「ビール瓶」もしくは「ビール瓶並」といって珍重する。表現法こそ違え同義語である。東北ではネウのほかホッケともいうようだが、ホッケとともにカジカ目アイナメ科に属している。魚型もアイナメとホッケはよく似ている。一方、関東地方でよく釣れることで有名な外房総の銚子、飯岡
あたりでは「キツネ」ともいう。色が黄色がかった3〜4年物が初冬になるとよく釣れるからだが、地元の漁師さん達はキツネが釣れると「わたりアイナメ」といって“乗っ込み”を示唆する。“わたり”は“渡り”を意味しており、浅場へ乗っ込んできたものを指すのだが、いわゆる“地づき”(地着き)のアイナメは色が黒灰褐色で、キツネとは明らかに異なる体色をしている。またアイナメは岩礁帯に棲息するために海底の色に同化する。黄色あり、やや赤みがかった褐色、黒褐色ありで保護色ともいえるのだが、これが漁師さん達には“化ける”というイメージがあるのだろう。キツネは化けるところから、それにひっかけてキツネと呼ぶ説もある。昔から「アイナメは根を釣れ」というように、カサゴと同じく海底に海藻などが着生している“根”(岩礁)に棲みついている。餌を目にすると根からパッと飛び出して食いつき、すぐさま根に戻る習性がある。これは殆どの根魚と同じである。そのため底を重点的に狙って釣ることになるのだが、すぐに“根掛かり”をする羽目になる。釣り針やオモリが岩礁にひっかかって取れなくなってしまうわけである。だが、これを恐れていてはアイナメは釣れない。カサゴ釣りと同じことで、万一、根掛かりして仕掛けを切ってしまってもまた新しいものと取り替えればいいのである。そのためアイナメ釣りには必ず幾つかの予備の仕掛けを用意していくことが基本とされている。大きいオモリを使うとどうしても根掛かりしやすいためにブラクリ仕掛けという独特の道具立てもある。ごく小粒のナツメ型オモリの下に釣り針をつけて誘うもので、仕掛けが繊細なぶん底ダチ(着底)のとり方が難しく、かなり技術のいる釣法でベテラン向きである。晩秋から冬にかけて産卵するが、旬は晩秋から初夏。産卵語のアイナメはかなり食欲が旺盛になっているためか“三尺跳び”というおもしろい行動を起こす。東京湾の走水沖はアイナメの好場所として知られるが、比較的水深の浅いところで針掛かりしたアイナメを追って、他のアイナメが跳ね上がるような仕草をすることが間々見られるという。こうした“三尺跳び”の現象が見られるときには往々にして「好釣果が得られる」というのが地元の漁師さんの解説であった。そしてまた銚子では、「キツネアイナメが渡ってくると大アイナメが釣れる」と漁師さん達は言う。しかし“三尺跳び”は春先に見られる現象であり“わたりアイナメ”のやってくる季節は冬である。“三尺跳び”という現象が、カンパチの幼魚のように「なにかおいしい餌がある」という理由で仲間を追っかけるのか、ただ単なる連鎖反応的行動によるものか定かでないが、習性としては珍しくおもしろいものであることは確かだ。根掛かりは必ずしも沖の岩礁帯だけとは限らない。沖の一文字や陸地続きの波止あたりでも海中には消波ブロックなどが埋め込まれている。したがって防波堤の護岸すれすれの辺地や大石の陰などを重点的に狙うとよく釣れるのだが、やはり根掛かりは起きるのである。餌は生きた藻エビやイソメ類である。コックン、コックンとかぶりを振るさまが伝わってきて魚信そのものはすこぶるいい感じである。あまり早い“合わせ”は必要なく“向こう合わせ”に近い感じで釣れてくる。

[丁寧に塩ふりあいなめ潮失ふ]兵庫池人
アイナメ自体の味を損ねることなく味わうにはお造りが一番ふさわしい。勿論、大きいものほど作りやすく、また美味であることはいうまでもない。釣れたらなるだけ長く生かしておいて、料理する寸前に締めて血抜きをする。そぎ切った薄造りはポン酢醤油にモミジオロシ、アサツキのみじん切りで。小さいものは丸ごと甘辛く煮つけたい。ただ、あっさりした魚なのでカサゴやタイのようにあまり濃い味付けにはせず、むしろ薄味で上品に仕立てあげたい。しっとりとしてまろやかな感じがアイナメの真骨頂であるからだ。また、三枚におろしたものを皮つきのまま身のほうに細かく包丁目を入れて骨切りをする。このとき皮まで切ってしまわずに皮一枚を残すように心がけたい。サッと熱湯をくぐらせたものを氷水の中に放って土瓶蒸しのタネにしてもいい。また湯引きはせずに串を打って醤油とみりんのタレをつけながら焼きあげる木の芽焼きは美味しい料理の一つである。北海道に棲息するエゾアイナメやウサギアイナメそしてクジメ、ホッケも同じ仲間だ。こちらは開いて生干しにしたものが一般的で、北海道の名物になっている。ホッケは日本海の佐渡島近海でもよく釣れている。(P10〜P14)

春夏秋冬、日本の豊かな海の幸を情緒たっぷり紹介しています。(文春文庫)



盛川 宏
1932年、大阪に生まれる。日刊スポーツ新聞社(東京本社)編集局運動部次長、レジャー部部長を経て現在フリーのジャーナリスト。東京釣り記者会会員。釣りに興味を持ったのは少年時代で釣歴は50年に及ぶ。近年は釣魚料理、とくに全国各地の漁師料理に興味を持ち、「釣ったら食べる」を主題にした著作が多い。 NHK、民放のテレビ番組でも活躍。「朝日新聞」「文藝春秋」ほか釣り雑誌などにコラムやエッセイを連載。著書に『魚釣り極楽帖』(筑摩書房)『釣りバカ調理帖』(講談社文庫)『食いしん坊釣り日記』(福武文庫)など。
posted by 管理人 at 07:00| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 趣味 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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