2006年05月25日

格闘技バイブル 著者・松浪健四郎

現在、K-1選手、PRIDE選手やボクシングの亀田興毅選手。さらにアテネ五輪で大活躍した柔道選手達、女子アマチュアレスリングの浜口京子選手、相撲の朝青龍関、琴欧州関など、日本における格闘技及び格闘技選手の人気はかなりのものがあります。何しろ、その昔は熱狂していたのは殆どが男どもだけだったのが、女性にも熱狂するファンが昔とは比べ物にならないほど増えたのは誰の目にも明らかでしょう。

勿論、それはマスコミの取り上げ方や主催者側の巧みな宣伝もあるでしょうが、なによりも日本人が他の民族に比べて根本的に格闘技好きだからではないでしょうか。

格闘技はおそらく世界中に存在するでしょうが、日本人ほど多種多様な武道、格闘技を愛好し、世界に広めた国民はいないでしょう。柔道は言うまでもなく空手、合気道、剣道、少林寺拳法。これらはかなり以前から世界中に広まり、多くの人々に愛好されており、日本独特の格闘技とされていた相撲までが、プロである大相撲だけではなく、アマチュア相撲も世界大会が開かれ好評を得ています。それは現在の角界に、世界中から沢山の入門者が訪れている事を見ても明らかです。

では、そもそも格闘技とは何か?武道なのか、スポーツなのか?武道とスポーツを分ける境界とは?そして、おそらくは世界最古の遊戯であり、体育であるのが格闘技でしょう。なぜなら道具なしに肉体だけで、しかも野球やサッカーと違い、一対一で出来るのだからどんな原始社会でも可能です。まさに格闘技は身体文化の原点ではないでしょうか。

本書は日本に限らず世界中の武道・格闘技をメジャー、マイナーを問わず、
その歴史やメカニズムを探求してまとめられた一冊です。テレビで観る格闘技だけではなく、活字でも格闘技の奥深さを味わってみて下さい。

【西洋の格闘技にはなかった蹴りの考察】
“「蹴る」という動作は、一本足で立って、逆の足で相手の躰を後ろに移動させるか、あるいは直接その足を当てたパワーでダメージを与えようとする動作である。つまり腕と手による「パンチ」に対する足の「キック」と考えても良いものであろう。固定された立ち足と宙に浮いた蹴り足、二本の足の運動の差異が蹴り足のインパクトの一点に強度として集中し、相手の躰に伝達される。その集中力とタイミングが、ダメージの大小を決するのはいうまでもなかろう。加えて、蹴り足のスピードもモノをいう。このとき、蹴ろうとする者の躰は、あらゆる筋肉を運動させ、ダメージを与えるための作用に加わる。力強いキックでは、キックに入ろうとする前の姿勢が前傾となる。その際、キックの主働筋である大腿直筋を伸展させる。で、それによって伸展反射が起こり、次の動作である強い脚伸展のための収縮を準備する。やさしく言えば、振り子運動を起こすための用意をするには前傾姿勢をとる必要があるし、そうすることによって、筋肉自体もキックの準備をするということであろう。また、はずみをつけて強いキックを繰り出すためには、振り子運動の利用が重要ということだ。いまひとつ、前傾姿勢の効果は、腰の屈曲が始まるのに先立って、大腿の前上方への動きをスタートさせる。そうしないことには、躰は前のめりになって倒れてしまうだろう。スイングを生み、腰の力強い振りへと移行し、ダメージを与えるべくキックとなる。しかし、単に前傾姿勢をとるよりも、まず後傾姿勢をとって、そのはずみを利用して前傾姿勢をとった方が、より大きなパワーを生む。これを学術的には、「ムチ打ち動作」と呼んでいる。サッカーにおけるキックのメカニズムも、この「ムチ打ち動作」から分析されている。「キック」なる格闘技の武器においても、「ムチ打ち動作」を躰に覚えさせておく必要があろう。躰を一本のテコと考え、腰を軸にして全身を動かせば、より大きなパワーを生むのは当然である。ただ、格闘技では、防御上それは許されない。そこで、後ろに反らせないために、躰の柔軟性が問われることとなる。「蹴る」という動作は、柔らかい躰をもつ格闘家だけの技術となるわけだ。「蹴る」という技術は、東洋で生まれた格闘技の主要な攻撃動作であった。西洋では、「殴る」ことまで考えたが、「蹴る」ことを導入しなかった。このことは、東洋人が西洋人に比して、はるかに柔軟性に富んだ躰をもっていたことを物語っている。靴の文化、ベッドの文化、これらは狩猟民族の名残であろう。狩猟民族を祖先にもつ西洋人達は、牧歌的な東洋人とはやはり異質だったのである。”(P65〜P67)

【優れた格闘家は「分裂型」が多い】
“巨人軍の長嶋茂雄元監督は、現役選手時代から「勘ピューター」の持ち主としてウワサされた。動物学的な「勘」を生かしながら大活躍したからである。「勘」に優れた力を発揮する人の性格は、学問上の性格、10のタイプからいえば、なんと、「分裂型」に入れられる。ドイツの精神病学者であったエミール・クレペリンが、精神病者の精神特質を検査するために、連続加算法という足し算による調査方法を考案した。それに心理学者の内田勇三郎が工夫をこらし、「内田クレペリン精神検査法」(UK法)を創始する。これによって、各方面で性格特質の検査がなされているが、『スポーツマンの性格』(小林晃夫編)には各種運動選手のその結果が詳しく記述されている。そのなかで、一番興味を惹くのは、やはり格闘競技の選手達の性格である。一流の柔道家に最も多く見られる特徴は、長嶋茂雄氏同様、「分裂型」の性格を持っていることだ。この割合が「強気敢行型」「地道粘り型」「粘着型」とほぼ同じで、二流選手達は「穏やか型」「温和型」「あっさり実行型」「じっくり型」を示している。つまり柔道選手として大成するには、身体能力に優れているに加え、強気で粘りのある性格と気性に激しさがなければならないことを教えてくれているのだ。このことは、選手の外見からでは、すべての素質を見抜くことが出来ないと言うことをも教えてくれている。格闘技に適した性格は「分裂型」だが、レスリングの一流選手ともなると、その傾向はさらに高まる。勘が良くて技の切れ味が良し。そして職人気質で名人肌。加えて多彩にして勝負上手し。また大物喰い。「分裂型」の特質であるが、さすがに強者たらんとする性格だと納得させられよう。だが困ったことに、同時に、へそまがり、アクが強い、マイペース、個性的、我が強いといった協調性を欠く特質をも兼備しているのだ。これらはおしなべて社会性の乏しさを物語っており、好ましいものとはいえない。格闘競技選手として成功するためには、UK法でいう「分裂型」の性格をもたなければならないが、それは社会生活を営むうえでは好ましいタイプの性格ではないわけだ。文字通りの二律背反。スポーツ心理学的に語れば、社会性の乏しい変人こそが格闘家にふさわしいということになろう。けれども、国民栄誉賞を受賞した山下泰裕六段の性格は、「分裂型」ではなく「そう鬱型」であったという。この性格で格闘家として成功した例は少なく、稀だったともいう。じっくり構え、はしゃぎの少ない朗らかな性格で世界を制覇し続けた山下六段。彼の性格は、決して格闘家向きではなかったのだ。だとしたなら、何が山下を成功させたのであろうか。結論的にいえば、山下は恵まれた身体能力をもっていたようだ。そして誰よりも努力家だったという。”(P68、P69)

本書は格闘技・武道をありとあらゆる面から科学的に分析、解説しています。単なる格闘技オタクの為の本ではなく、立派な民族学、文化人類学の書と呼ぶべき一冊です。(ベースボール・マガジン社)



松浪 健四郎
1946年、大阪府泉佐野市生まれ。東ミシガン大学に2年間留学後日体大卒業。日大大学院博士課程修了(西洋体育・スポーツ史)。東海大講師を経て、1975年より3年間、国際交流基金を受けてアフガニスタン国立カブール大で体育学の指導と研究に従事する。学生時代はレスラーとして活躍。全日本学生、全日本社会人、全米選手権大会等で優勝。アジア大会、世界選手権大会等の日本代表選手兼コーチ。日本体育協会オリンピック・コーチ、国際アマレスリング連盟アジア地区普及コーチ等を歴任。柔道四段。著書に『アフガン褐色の日々』、『シルクロードを駆ける』、『おもしろスポーツ史』、『身体観の研究』等多数あり。
posted by 管理人 at 07:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 趣味 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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