実は私自身も麺について深い知識があったわけではなく、その場はそれで引き下がった。
以来、屋台の行列と厚生省でのやり取りが心に引っ掛かって離れなくなったのである。
それから10年の後、機は熟し、遂に即席めんの開発に成功した。忘れもしない、58年8月25日である。商品名は「チキンラーメン」と名付けた。
即席めんの開発に成功した時、私は48歳になっていた。
遅い出発とよく言われるが、人生に遅すぎるということはない。
50歳でも60歳からでも新しい出発はある。
私は今年92歳になった(山口注:本書は平成14年に出版されたもので、92歳とはその当時の年齢)。
振り返ると、私の人生は波乱の連続だった。
両親の顔も知らず、独立独歩で生きてきた。
数々の事業に手を染めたが、まさに七転び八起き、浮き沈みの大きい人生だった。
成功の喜びに浸る間もなく、何度も失意の底に突き落とされた。
しかし、そうした苦しい経験が、いざという時に常識を越える力を発揮させてくれた。
即席めんの発明に辿り着くには、やはり48年間の人生が必要だった。(P17〜P20)
明日へ続く