昨日の続き
『卸売市場の八割が採用!「発泡スチロール処理機」〜“優しく”溶かせばゴミが商品に』
●名濃(愛知県・名古屋市)
●パナ・ケミカル(東京都・杉並区)
日本一の水産物取扱量を誇る、東京築地市場。朝、セリを終えた仲買人たちの荷車をかき分けつつ、狭い通路を奥へ案内されていくと突然、白く巨大な「山」が目に飛び込んでくる。近寄ると、見上げるほどの高さだ。 全て発泡スチロール。魚などを入れていたが不要になったもので、その発生量、なんと一日で10トン超。荷車が入れ替わり立ち代わり、運びこんで来る。 「何もしなけりゃ、すぐに市場が埋まっちゃいますよ」 こう話すのは築地市場協会の専務理事、大野俊廣。ただ、困り果てた様子でもない。さらに奥へと案内してもらう。今度は小さな建物の中に、人間の背丈の三倍はある巨大な機械。上半分はタンクのようで、下半分は何かが内部で回転する形状だ。そしてその前のに整然と積み上げられた、ピンク色の板。大野が一枚、おもむろに持ち上げる。 「さっきの発泡スチロールを、あの機械で処理するとこうなります。 一枚数百円で買い取ってもらえるんですよ」 ゴミが売れる。それを実現させたのは、材質の劣化を防ぎながら溶かして固める技と、固めたスチロールを資源として流通させるビジネスモデルの融合だ。 名古屋市にある機械メーカー「名濃」の本社工場。例の処理機はここで生み出された。加藤善久社長は開発当時を振り返る。 「発泡スチロールを溶かすのは難しくない。一番いい温度で溶かすのに苦労したんです」 “いい温度”とは何か。試しに発泡スチロールをガスバーナーの火で溶かしてみる。スチロールはすぐに発火し、煙を出しながら黒く縮んでいく。このように温度の高い火で溶かすと、安全面で問題があるうえ、材質が変わって再利用できなくなってしまうのだ。火がだめなら、どうやって溶かすのか。処理機のスイッチを入れてもらった。 轟音とともに、機械の下半分を占める回転部が高速回転を始める。そこに、上のタンクから、細かく砕かれた発泡スチロールの粒がバサバサと勢いよく落下。回転部に一定時間とどまった発泡スチロールは、さらに下に落ちて押し固められる。機械から押し出されたときには粒が完全に溶け合い、縦1メートル、幅25センチ、厚さ3センチほどの板に姿を変える。 機械の外から見ていて、分かるのはそれだけだ。名濃の担当者が、機械の回転部を開けながら説明してくれた。 「摩擦熱で溶かすんですよ」 回転部の中には複雑な形をした大きな歯車のようなものが仕込んである。落下してきた発泡スチロールは、この“歯車”が回転している間、ツメとツメの間にうまく滞留しながら、互いに擦れ合うのだ。 「120度前後。より樹脂の劣化が少ない温度です」 試行錯誤の末、この形と大きさに落ち着いた“歯車”。その中から、溶ける寸前の発泡スチロールを少し取り出してもらった。手のひらに載せても、火傷する熱さではない。ギュッと握ると、プヨプヨしたスポンジのような感触で、そのまま小さく押し固められる。 「機械ではもっと大量に押し固めるので、余熱でさらに溶け合います」 話はまだ終わらない。この板は誰かが買い取り、リサイクルし、樹脂材料として販売しなければ「小さく縮めた」以上の意味がない。その仕組みを構築し、ビジネスとして軌道に乗せたのが、処理機を名濃と共同開発した樹脂商社の「パナ・ケミカル」だ。そもそも発泡スチロールを溶かした後、現場から運び出し流通させやすいよう板状にすることを提案したのも、この会社だという。犬飼健太郎専務は胸を張って言う。 「すでに全国の卸売市場やスーパーなど千七百ヵ所に機械を販売し、そこから板を買い取っています」 この仕組みに加わった卸売市場は、すでに全国の公設市場の八割にのぼる。最近は工場などから不要な発泡スチロールが持ち込まれる産廃業者にも、処理機の普及が進んでいるという。パナ・ケミカルは板を買い取り、コストの合い易い中国のリサイクル工場に持ち込んで樹脂原料として再生。それを販売する。 「たとえば国内の大手家電メーカーが、ビデオテープの箱の部分に使っています」 その他デジタルカメラ、スピーカー、額縁、建材など、樹脂を使う幅広い商品の一部に、ゴミから生まれたあの板が生まれ変わっている。 いまや、この仕組みでリサイクルする発泡スチロールの板は月間3000トン弱にのぼる。だがビジネス拡大の取り組みは、むしろ加速している。 「実は欧米でも処理機の販売に向け、動き始めました」(犬飼専務) 空前の原油高を受け、引き合いが強まっているというリサイクル原料。ニッポンの技と知恵が生んだリサイクルの環は、果たして世界に広がるか。 〈2006年7月10日放映〉 (P107〜P111)
明日へ続く
2008年11月29日
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