2008年09月28日

「ニッポン社会」入門―英国人記者の抱腹レポート 著者/コリン ジョイス 翻訳/谷岡 健彦

昨日の続き

【独創性】

『日本人はすぐれた発明家だ』

日本人の五大発明って何だろう? こう尋ねられると、多くの人はウォークマンだとか、VHSデッキだとかについて話を始めることだろう。あるいは、「カンバン方式生産」とかいうものを持ち出す人もいるかもしれない(ぼくにはそれがどういったものかはよくわからないが)。しかし、ぼくに言わせれば、そうした人たちはみな見当違いをしている。 本当に偉大な発明は「発明」とは認識されないことが多い。文化や生活の奥深くにまで浸透しているため、発明だと気づきもしないのだ。

(中略) 日本人が発明したものの中で、ぼくの一番のお気に入りは銭湯だ。ほとんど完璧とさえ言ってよいほどの発明品だと思う。銭湯は日本全国で、東京だけでも何百もの箇所で、身体を清潔に保つこととリラックスすることを可能にしてくれている。夏の夕方、遊びに出かける前に日中の汗を流しておけるのはとても好都合だ。冬は冬で、身体が温まる。

(中略) ぼくは銭湯を日本の暮らし特有の恩恵と考えているのだが、不思議なことに、日本人はせう思っていないようだ。日本の若者の多くが銭湯に行ったことがないというのは驚きだ。ぼくは、2002年に東京都浴場組合が作成した銭湯マップを持っているのだが、その後、マップにある銭湯に行ってみるとその銭湯が閉鎖になってしまっていることが何度もあった。 ぼくはこれはマーケティングのミスだと思う。2000円もする温泉は人でいっぱいなのに、430円の銭湯を利用しているのはお年寄りだけだ。風景画が描かれた壁と壮大な高い天井の浴場、それにハーブ風呂、サウナ、泡とジェットのマッサージ風呂などを備えた銭湯の多くは、質の面では決して見劣りしないのに。

(中略) ともかく、イギリスから友人がやって来ると、彼らにわざわざ銭湯に行くことを勧める必要さえないのである。友人たちはあらかじめガイドブックを読んで銭湯に興味を持っており、一度行くとすぐに銭湯のファンになる。銭湯は本当に素晴らしい思いつきだ。

(中略) 高校生の頃、ぼくは美術が嫌いだった。

(中略) ぼくは、鑑賞させられた絵画の中に含まれている何かに自分は反抗していたのだと思いたい。「モナリザ」はぼくの心を動かしはしなかったし、それはいまも変わらない。絵のモデルになっていなかったならば名前も忘れられていたであろうオランダ商人たちの肖像画を見ると、ぼくは不快感で胸がムカムカしてしまう。ピカソやカンディンスキーも好きになれない。ある種のレストランの壁にかけておくには相応しいと思うが。 でも広重や北斎はすぐに気に入った。ぼくは美術評論家ではないが、素人なりの考えを言わせてもらえば、作品の制作プロセスこそ芸術を芸術たらしめるものなのだ。版画は同一の作品を何百、何千と生み出すことができる。つまり、浮世絵師はたった一人の顧客、ある虚栄心の強い大金持ちのために作品を制作したのではない。また、彼らの動機は神の栄光を高めることにあったものでもなく、個人的な表現衝動の純粋な追求にあったのでもない。浮世絵師は卓越した技巧を持ちながら、それを何千という単位で売れる美術作品を制作することに生かそうとしたのである。 したがって、彼らは人々に馴染みのある風景を描いた。浅草寺、隅田川に架かる橋、多くの人々で賑わう両国の花火……。現在、自分が住んでいる地域や自分がよく行く公園を描いた作品に出くわすのも稀ではないだろう。不忍池や堀切菖蒲園のように、描かれたときからずいぶん歳月が経っているにもかかわらず、浮世絵名残をどこかに留めているところもあれば、信じられないくらい景色が一変しているところもある。王子に滝があったとか、いまは人でごった返している街がかつては田んぼだったとかという情景は、想像するのも難しい。 浮世絵の色彩はすげに目を捉えるし、その構図は斬新だ。浮世絵は、ちょっと言い過ぎかもしれないが時代の記録、少なくとも、その時代の人々の心を捉えたものの記録でもある。浮世絵を見れば、19世紀に外国人がどのように日本人と交遊していたかが解るし、人力車の横を汽車が通り過ぎて行く光景も目にできる。そこに描かれているのは、火消し、芸者、歌舞伎役者といった、一般の人々の憧れの対象だ。聖人や教皇ばかりが描かれているのではない。(後半略:P72〜P81)

明日へ続く

posted by 管理人 at 07:00| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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