2008年07月09日

とことんおでん紀行 著者/新井由己

昨日の続き

『フキとツブ貝の推移[大間〜青森]』
昆布漁を開始するアナウンスが、朝の6時に鳴り響いた。その音で目が覚める。昨夜、函館から下北半島の大間町にフェリーで渡り、岬の公園で一夜を過ごしたのだ。早速堤防に向かう。昆布を採る小さな船が続々と出港中である。水平線の向こうに北海道が見え、手前の津軽海峡には白い漁船が連なる。ちょうどブリやマグロの漁期らしく、昆布干しのおばさんの話では、特にマグロが豊漁だという、昨日は一本200キロの特大マグロが30本上がったそうだ。 (中略) 昆布船の合間を縫って、夜間操業のイカ釣り船が戻ってくる。昨夜の漁で捕ったイカを庭先で処理する家も多い。農業でも漁業でも、食べ物を生産している土地には人々がかもし出す生き生きとした雰囲気が漂う。 大間のスーパーでは、北海道でテンプラと称して売られていた揚げカマボコが「サツマ揚げ」に変わった。メーカー表示は宮城県塩竈市が多い。同じ揚げカマボコであっても、海路を伝って西から伝えられた「テンプラ」が小樽のカマボコ屋を中心に北海道内に広まり、一方、津軽海峡を隔てた東北以南は東日本の“サツマ揚げ圏”なのがわかる。 海岸線に点在する集落で昆布干しの様子を眺めながら東に進み、一時間ほどで大畑町に着いた。スーパーに立ち寄って、北海道でおでん種に使われたフキやワラビがあるかどうか聞く。ところが、「フキやワラビを入れると煮しめになる」という返事が多かった。 〈なんで、フキやワラビが入るとおでんではないのだろう……〉 さらに40分ほど走り、むつ市に着く。スーパーのダイエーに「串刺しおでん種七種」と書かれたコーナーがあった。シュリ(ムール)貝・ホッキ貝・ホタテ貝・ツブ貝・ハマグリ・サザエ・イイダコがある。これは珍しいと思って売り場の人に尋ねると、「こんなのはあまり入れないね」と言われてしまった。ただ、北海道と同じようにツブ貝は使うようで、そこだけ品切れだった。 「ツブだけ売り切れですけど、やっぱり好きな人が多いですか?」 「そうだね。だしが出るから殻ごと入れるね」 北海道では剥いた状態で使われたが、ここでは殻付きのまま串刺しになっていた。まさかり型の下北半島を一気に走り抜け、二時間半で野辺地町に出た。スーパーで話を聞くと、ここでもフキなどが入ると「煮しめ」になり、ツブ貝も殻ごと入れるそうだ同じツブ貝をおでんに入れるのに、津軽海峡を隔てただけで、剥いた物と殻付きのままの違いがあるのはどうしてだろうか。がらっと変わる部分と少しずつズレていく部分が交錯し、境界探しの旅がますますおもしろくなってきた。(P422〜P46)

『しょうが味噌のおでん[青森〜十和田湖]』
野辺地から一時間ほど走り、夕暮れどきに青森市内に入った。市街地の外れにある大型ショッピングセンターで、味噌をかけるおでんを見つけた。中華料理店のテナントにおでんコーナーがあり、その横に味噌壷が置いてあった。中身を尋ねたら、しょうが入りの白味噌だれだった。鍋の中には、サツマ揚げ・がんもどき・玉子・コンニャク・大根・竹輪・厚揚げ・野菜入りがんもどきが見えた。 名古屋周辺で味噌だれをかけるのは聞いていたが、青森のしょうが味噌は知らなかった。この店だけの“売り”なのか、もっと普及しているのか、興味がわいてくる。ただ、実際に食べると、しょうがが効きすぎてあまり美味しいとは思えなかった。 (中略) その後、繁華街の外れでおでんの看板を発見。小料理屋「藤壺」の戸を開けた。店内にはカウンターが六席あり、その奥に座敷が見えた。 おでん鍋の蓋を開けてもらうと、下北半島の各地で聞いたように、ツブ貝が殻ごと使われているのが目についた。鍋は函館で見た物と同じだが、ここでは仕切りを使わずに、みんな一緒に煮込んでいる。だし汁は昆布だしを中心にした塩味で、関西風である。しょうが味噌は無かったが、主人に聞くと、家庭では合わせ味噌にしょうがを混ぜて使うこともあるそうだ。一方、味噌おでんを尋ねたら、コンニャク・サツマ揚げ・玉子・竹輪を串刺しにして、しょうが味噌をかけるという。まれに焼き豆腐も加わるとか。ただ、味噌おでんを食べるのは春から夏にかけてで、「花見には味噌おでんが欠かせない」と話す。 形や食べる時期から、北海道の味噌おでんと同じように思える。これはおそらく、青函連絡船による人の行き来が関係するのだろう。それにしても、青森の味噌だれにしょうがを入れるようになった理由は何だろうか。 翌日、青森市内から十和田湖を目指して急坂を上り、萱野高原に出た。紅葉した山並みの手前に広々とした薄茶色の草原が広がる。土産物屋の一角におでんがあって、コンニャク・竹輪・サツマ揚げ・団子・ゴボウ巻き・ツブ貝・ホタテが、醤油味で煮込まれていた。 店のお姉さんに味噌おでんはないかと聞く。 「青森はみんなしょうが味噌をかけますよ」 よく見ると、この店にもおでん鍋の横に味噌壺が置いてあり、買う人はほとんどしょうが味噌をかけていた。 青森市内のスーパーで食べたときのしょうがが強くなく、けっこう美味しい。少し先の「萱野茶屋」では「筍おでん」という名前で二種類のおでんが売られていた。タケノコ・コンニャク・ダンゴを串刺しにしたのが三本と、うずら卵を三個串刺しにしたのが一本のセットで、これにもしょうが味噌がかけられる。 さらにのろのろと坂道を走り、八甲田山の麓にある酸ケ湯温泉に着いた。小雨が落ち始め気温が下がってきたのでカッパを着込む。ここの売店にも筍おでんがあるのを確認したが、その先にある奥入瀬渓谷のレストハウスには見当たらなかった。どうやらしょうが味噌のおでんは、青森市を中心に広まっているようだ。 (P46〜P48)

明日へ続く

posted by 管理人 at 07:00| 東京 不明| Comment(0) | TrackBack(0) | 文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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